採用活動において、給与の透明性は近年最も注目されるテーマの一つです。しかし、現実には多くの企業が求人広告に給与情報を記載しない方針を取っています。その背景には、柔軟性の確保、幅広いスキル層への対応、社内調整の必要性など、複雑な事情があります。
しかし、見落とされがちな重要な事実があります。それは、候補者は回答を待たないということです。最近の調査によると、給与情報が記載されていない場合、候補者は即座に推測を行い、その推測が応募意欲、面接での姿勢、さらには最終的なオファーへの反応に大きな影響を与えています。
本記事では、こうした候補者の心理と行動を分析し、企業がどのように戦略的に対応できるかを解説します。
なぜ給与情報の非公開が問題なのか?
| | 給与情報がない場合、候補者は「後で確認すればよい」とは考えません。むしろ、それをシグナルとして受け取り、次のような判断を下します。
(調査対象:337名のプロフェッショナル)
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1. 意思決定は早期にはじまる
候補者は「後で確認すればよい」とは考えません。給与情報は、応募前の意思決定において重要な判断材料です。つまり、初回接触前から候補者の意思決定は始まっているのです。
推奨対応策
幅広い給与レンジの提示
例:「年収〇〇万円~〇〇万円」など、柔軟性を示しつつ不確実性を減らす
レベル別の給与体系の説明
例:「ポジションや経験に応じた給与バンドを設定」
報酬決定の仕組みを簡潔に記載
例:「市場水準に基づき、役割と経験を考慮して決定」
2. 交渉の主導権を失いやすい
給与情報を記載しない場合、最大の回答層は「給与は交渉可能」と考える候補者です。この結果、交渉に積極的な人材が集まりやすくなります。しかし、企業側が初期段階で給与の基準を示さないと、候補者の期待値が先に固定され、企業は交渉の主導権を失うリスクがあります。
推奨対応策
幅広いレンジでもよいので提示する
例:「年収〇〇万円~〇〇万円」など、柔軟性を示しつつ不確実性を減らす
「市場水準に基づく給与帯」といった明確な表現を使用する
候補者に安心感を与え、交渉の基準を企業側で設定する
3. プロセス効率の低下
初期段階で候補者との期待値をすり合わせない場合、面接後半で給与に関するミスマッチが発覚し、辞退や面接延長、再調整が発生するリスクがあります。これは採用スピードを遅らせるだけでなく、企業・候補者双方にとって大きな時間的コストとなります。
推奨対応策
採用開始前に社内で給与レンジを合意
事前に基準を明確化し、採用プロセス全体の効率を高める
採用担当者間で期待値を共有
候補者対応に一貫性を持たせ、誤解や不一致を防ぐ
4. 福利厚生だけでは補えない
給与情報が非公開の場合、それを「福利厚生重視」と解釈する候補者はごく少数です。さらに、「競争力のある福利厚生」といった抽象的な表現では、給与不明による不安を解消することはできません。候補者は、具体的な報酬全体像を求めています。
推奨対応策
実例を挙げて説明する
例:「年間ボーナス制度」「柔軟な勤務体系」「研修・キャリア支援」など、具体的な福利厚生を提示
福利厚生が報酬を補完する仕組みを明示する
例:「基本給+業績連動ボーナス」「柔軟な働き方によるワークライフバランス」など、給与との関係性を説明
5. 社内で承認が取れていないシグナルになる
経験豊富な候補者は、給与情報が未記載の場合、それを「予算が未承認」「役割が不明確」と推測する傾向があります。こうした誤解は、企業の信頼性や採用プロセスへの期待に影響を与えかねません。
推奨対応策
「経験や役職に応じて決定」と明記する
候補者に柔軟性と公平性を示し、不安を軽減する
簡潔で率直な説明を加える
例:「市場水準に基づき、役割と経験を考慮して決定」など、誠実な情報提供が信頼を高める
6. 優秀人材を遠ざける
給与情報が記載されていない場合、応募を避ける候補者は「効率を重視する層」です。こうした人材は、すでに就業中で転職活動に割ける時間が限られているケースが多く、希少性が高く採用難易度も高い傾向があります。したがって、給与明示は戦略的な手段となり得ます。
推奨対応策
採用が難しいポジションでは、給与明示を「優秀人材へのアクセス戦略」として捉える
特に専門性が高い職種やシニアポジションでは、透明性が応募意欲を高める鍵になります。
完全な透明性でなくても、部分的な情報開示を行う
例:「年収レンジ」「報酬決定の仕組み」など、方向性を示すだけでも候補者の不安を軽減できます。
透明性は交渉力を奪わない、むしろ強化する
給与情報を開示するかどうか、そしてどの程度開示するかは、決して単純な判断ではありません。
透明性とは、固定額を提示することではなく、不確実性を減らし、期待値を調整し、採用プロセス全体で信頼を構築することです。
企業が給与の明確化を戦略的に進めることで、交渉力を失うわけではありません。むしろ、より良い会話、明確な期待値、そして予測可能な採用結果を生み出すことができます。これは、企業にとっても候補者にとっても、双方にメリットがあります。
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